初完走! 彩の国 100km

埼玉の里山を100km進むのに26時間半以上かかった。まとまった休憩なくこんなに長い時間山で動き続けたのは初めてだった。もちろん徹夜だ。もう二度と走りたくない、もう二度と山に行きたくないと思った。レースが終わってからも延々と続く山道が夢に出てきてうなされた。目に見える外傷はなかったものの、レース直前に捻挫した足首はまだ痛むし、足の調子はすこぶる悪い。長かった、とにかく、長かった。完走できたことを、やり切った、出し切った、聞こえのいい感じにはいくらでも言えるが、振り返ってみても、私はこの距離と時間が楽しかったと言える力を持ち合わせていない。

苦行のような時間の中でも唯一楽しかったのはエイドだ。風呂に入りたいー!と言えば笑ってくれる。美味しい!と言えば「おかわりあるよ!これもあるよ!」とあれこれ出してくれる。なんたる安心感。オアシスだ!竜宮城だ!ここは家だ!そう思った。エイドでは長居しない、トレラン先輩に教えてもらったけど、長居した。この場を離れたくないと思いながら、いってらっしゃい。そう言われて旅の続きに出る。国内外問わず巡礼路や街道には茶屋や宿場町があった。このエイドシステムは昔から変わらないのだ。昔の旅路は今のようにどこかしこに人がいて店があるわけではない、山には道はあれど今だって何もない。道中にある茶屋はどれほどありがたかっただろうと思わずにはいられない。

長い距離のレース中には幻覚を見たり幻聴を聞いたりすると聞く。疲労と睡魔がごちゃ混ぜになった状態で、眠ることなく闇に包まれた山の中をひたすら進んでいると、ずっと同じ道を歩いているような気になったり、ずっと闇の中から抜け出せない気になったり、夢か現実かとなるタイミングがいくらでもあった。幸いなのか残念ながらなのか、私は今回体験しなかったが、人が見える、民家が見える、声が聞こえる、車が見える、大男が見える、こういった具体的な幻覚や幻聴体験を、今だって伝え聞くくらいだから、あいつはおかしなことを言うようになった、山神さまに呪われてしまったと、昔話や言い伝えとして残っていることもあるんだろう。現実的だけど。

もうひとつ、ペーサーや仲間というものが何なのかよく分かっていなかったが、長い距離、長い時間走ってみて、なんとなく分かるような気がした。この彩の国100マイルで優勝した方のインタビューを読むと、こんなに速い選手でも1人では出せない力があって、それを引き出すのもペーサーなのかと勉強になった。

1年かけて挑んだ100km26時間半、楽しいとは思えなかったがおもしろい体験にはなっていると思う。